<スタッフ紹介>

        北川学芸員とその助手

    

 

  

 

 

時代衣装の構成と使われた技術についてわかりやすくご説明します。素人撮影のため見辛い箇所があるかもしれませんが、なにとぞご容赦ください。

ご質問・ご要望はまで。

 

 

インターネットミニ染織講座

衣装復元制作・江戸時代初期6号(撚糸)

3.撚糸

  衣装の生地を製作する工程です。令和4年度から5年度にかけて制作を行い、完成した江戸初期2号衣装と同じく、今回の江戸初期6号衣装にも「一越縮緬」(ひとこしちりめん)と同じ組織が使われています。今回この生地を制作して下さるのは、江戸初期2号衣装から引き続き、京都府京丹後市弥栄町の川八工場さん、この日は同工場の新入社員さんの研修も兼ねて代表者の川戸洋祐さんにご説明を伺います。

 まずは一越縮緬に使われる撚糸を、木製八丁撚糸機を使って製作する工程です。ここでは、特に緯煮(ぬきたき)と撚糸の工程に重点を置き、解説します。

 緯煮(ぬきたき)の工程です。緯煮とは、沸騰したお湯の中で枠に巻き取られた生糸を煮る工程です。煮ることによって、生糸のセリシンがゲル化し、水撚り(八丁撚糸)が出来るようにします。

 枠に生糸を巻き付けたものを100度のお湯に沈め、煮ます。

 動画で見てみましょう。


    ゆっくりと沈めていく

 

 枠は木製とジュラルミン製の、2種類があります。木製の枠の欠点は、水に浮いてしまうため重りを置かねばならず、途中で重りが外れてしまうと緯煮が失敗してしまうことです。利点は、とても丈夫で糸が熱で縮んでも圧力で壊れることはなく、どんな縮みやすい糸でも利用することができることです。ジュラルミン製の枠の利点は、重りを置かずとも沈むため、現代の緯煮に使われる枠の主流となっていますが、欠点は熱で糸が縮む際に枠が圧力で壊れてしまうことがあることです。いずれも一長一短がありそうです。

 

   ジュラルミン製の枠        木製の枠

  

  巻いた数が多いものは煮る時間も長くなるため、巻いた数の多いものからお湯の中に入れ、糸全体に浸透するように沈めて、釜の蓋を閉じます。今回は35分間緯煮を行います。このとき、枠同士がくっついていると沸騰して糸の表面が崩れ、糸がだめになってしまうため、必ず枠と枠の間があいていることを確認します。

 緯煮が終わった後は、30分程流水につけます。ここでしっかり冷やさないと、次の工程である下管に巻いている最中に糸の表面が崩れてしまうため、しっかりと熱を取ります。

 

    水に浸けて熱を取る

 

 次は八丁撚糸機にかけるために下管に巻いていく工程です。今回は江戸初期2号の復元時、撚糸の際に使用した三輪式八丁撚糸機ではなく、江戸時代から伝わる木製八丁撚糸機を使うため、これに対応する下管に緯煮の終わった糸を巻き付けていきます。指先で糸の張りを感じながら調節を行うこの作業は、職人さんの腕の見せ所だそうで、この日は新入社員さんに教えながら作業をされておられました。この工程については、詳しくは「復元制作衣装(江戸初期2号) 3.撚糸」をご参照ください。

 

      下管巻の様子  画像下の管が木製八丁撚糸機用管

 

 撚糸の工程です。まずは動かす準備から行います。

 まず、静輪を27匁(約101グラム)の重さのものに変更します。静輪は糸がたるまないようにするための重りの役割を果たしており、撚糸を行う糸によって重さを変更する必要があるためです。

 次に、八丁車のギアを小さなものに変更します。八丁車のギアは速度と撚り数を調整する決め手となるパーツのひとつです。八丁車自体の回転速度は一定ですが、歯車の大きさを変えることで回転速度と撚り数を調整することができるのです。歯車の大きさは大きいほど回転が速くなり、糸を巻き取る速度も速くなります。そうすると、八丁車と連動している錘の回転速度が速くなり、その分撚り数が少なくなります。そのようなことから、今回撚りを3100回とかなり強くかける必要があるため、小さな歯車にすることで回転を遅くして、強い撚りをかけていきます。

 

        木製八丁撚糸機用のギア        静輪

 

 八丁車のチェーンの長さを調整し、スムーズに回転するように油をさします。

 また、八丁車と錘をつないでいる早緒(はやお)の繋ぎ目の滑りを良くし、毛羽立を抑えるためにロウを塗ります。

 早緒は使い込むにつれ劣化していきます。早緒を交換するときは、1本の両端を繋ぎ合わせ、1周にして使用します。繋ぎ合わせる際、両端をほどいて編むようにして繋ぎ合わせる必要があるため、どうしても繋ぎ目は弱くなるそうです。早緒は中心にナイロン同士を絡ませ、その周りに麻糸、次にその他の繊維が2周ほどおおわれている特殊な構造になっており、この構造だからこそ1周に繋げることができるそうです。しかし、早緒は摩耗品でありながら、今やその作り手がいないため、川戸さんは「代替品は思いつかない、残庫の早緒を使いながら工夫してやっていくしかない」とおっしゃっていました。

     残り少ない早緒   早緒同士が重ならないように
   八丁車に巻かれている


  次に、錘に巻いた下管を取り付けていきます。
  取り付け、巻き取りに糸をセットしたら遂に八丁撚糸機を動かしていきます。

 上の管から水が滴り落ちてくる   静輪に汚れが付着しないように
     スポンジで防止
 糸を巻いた下管をセッティング     セット完了 撚糸へ

 

 動画で見てみましょう。

 

 八丁撚糸機を稼働させ、糸を静輪に通して撚りをかけていきます。糸の乾燥を防ぐため、撚糸が行われている間、錘の上から水が絶えることなく滴っています。

     撚糸の様子

 

 伝統的な八丁撚糸機は今は製造されていないため、修理する業者も居らず、新品の部品も作られていません。早緒の入手困難をはじめとした部品不足も深刻ですが、常に水を使う木製八丁撚糸機は、本体の木の部分にも限界がきており、川八工場さんでは木の中に鉄筋を通して補強して、稼働している状態なのだそうです。代替出来そうな部品や備品を見つけながら、歴史ある撚糸機を維持するために、知恵を絞り、努力を続けて切磋琢磨されているお姿を拝見し、1日でも長く機械が存続するよう願ってやみません。

 また、今回同工場では地元の若者が入社され、熱心に技術を学んでおられる姿もお見受けしました。次代への技術継承と共に、技術を繋ぐ道具や機械の危機的状況と存続の在り方について深く考える機会となりました。当協会の今後の活動にも生かしていきたいと考えています。


この日の工程は、

→緯煮を行う
→八丁撚糸機のギアを変更、撚る数を調整する
→緯煮した糸を水にさらす
→糸を下管に巻く
→下管を八丁撚糸機に取り付ける
→撚糸を行う
→完成


次は整経の作業です。

 

 

 

 

 

 
 
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