<スタッフ紹介>

        北川学芸員とその助手

    

 

  

 

 

時代衣装の構成と使われた技術についてわかりやすくご説明します。素人撮影のため見辛い箇所があるかもしれませんが、なにとぞご容赦ください。

ご質問・ご要望はまで。

 

 

インターネットミニ染織講座

衣装復元制作・室町時代12号(下絵)

 

3.下絵

下絵の作業をご紹介するはじめに、まず青花についてお話しします。青花とは露草の花汁のことをいいます。青花を作るには、露草が咲く7月〜8月頃に花びらだけを収穫し、花びらの汁を絞り青花液を作ります。厚手の布に包んで絞り、また揉んで絞るという作業を繰り返し、たまった青花液は刷毛で美濃紙に裏表染み込ませ、染めた紙は天日乾燥します。染めては干すという作業を70〜80回繰り返し、100枚100gあった紙が400gになるまで染め続けるという大変手間のかかる作業を重ねて完成します。滋賀県草津市が主な産地で、江戸時代、友禅染の発展とともに栽培がさかんになり、大正〜昭和初期に最盛期を迎えましたが、きものの需要低下に伴い青花を作る生産者も少なくなりました。青花は稀少となり価格が高騰したため、現在は化学染料で作る価格の安い代用青花が主流になっています。青花と代用青花は、水に浸けると色が消えるという特性は同じですが、決定的な違いはその染料の「もち」にあるといいます。代用青花を用いて描いた下絵は1年以上置いておくと自然に色が消えてしまうため、制作が長期に亘る高度な技術を要するきものには使用できません。実際のところ、現代のきものは制作工程期間が短いため代用青花で十分なのだとか。しかし生地の風合いを損なわない、筆で描いたときの染料の伸びの良さなど、青花の優れた特性には敵わないそうです。職人の方たちは高価でも青花を備え、仕事によって青花と代用青花を使い分けて使用しておられるようです。(この作業では、すべて青花を使用しています)

青花(紙に染み込ませた液を水で溶いて使用) 代用青花

 

さて室町12号の下絵工程を行って下さるのは、伝統工芸士の服部好三さん。下絵の工程は桃山6号と同様ですが、ここではトレーシングペーパーではなく透明なトレースに柄をうつしていき、それをもとに生地に直接下絵を描いていきます。(トレースにうつす作業は「桃山時代6号下絵」を参照)

柄をうつした絵羽型のトレース 拡大

 

柄を書いたトレースに生地を置き、青花をつけた筆で描く

 

生地にはトレースの下絵がうつっています

 

室町12号は辻が花、縫い締め絞り、帽子絞りが衣装全体に施されています。これだけ絞りが使われていると、実物の元の柄配置が判り難くなってきます。つまり、我々の見ている柄は絞りによって既に伸び縮みした状態のものですから、実物が下絵だった頃の柄の位置とは若干のズレが生じている可能性があります。当時のトレースが残っていれば正確に描きとることができるのでしょうが、現状実物から描きとることしかできません。そのようなことから、服部さんは柄に絞りが施された状態を想定し、出来上がった時の脇、肩、背の部分の柄がしっかりと合うように調整しながら下絵を描いていきます。これは全体の構図と出来上がりの状態をあわせてイメージしないと到底出来ることではありません。筆描きひとつとっても、不安定な生地の上でなめらかに筆を動かすことは、簡単に見えても出来ないことです。こうして、ひとつひとつの作業が熟練された技によって行われていきます。

 

 

下絵の職人さんは少なくなり、後継者が育っていないのが現状だそうで、今現役で頑張っておられる方々で終わりではないか、というお話もお伺いしました。下絵を描く職人さんが居なくなったらきものの制作は根本的に成り立たなくなってしまいます。現代のデジタル技術は、その解決策になるのでしょうか。染織祭衣装のような、既成型ではないものづくりの中で生まれたものは、画一化されたデジタル技術では複製が困難であるといわれています。染織祭衣装復元の取組みが、職人さん達の技術を繋ぐ機会になることを願ってやみません。

 

この日の工程は、

→柄が描かれたトレースの上に該当する部位の生地を置く
→青花をつけた筆で直接柄を生地にうつしていく

 

次は糸入れの工程です。この工程は「桃山時代6号糸入れ」でご紹介します。

 

 
 
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