<スタッフ紹介>

        北川学芸員とその助手

    

 

  

 

 

時代衣装の構成と使われた技術についてわかりやすくご説明します。素人撮影のため見辛い箇所があるかもしれませんが、なにとぞご容赦ください。

ご質問・ご要望はまで。

 

 

インターネットミニ染織講座

衣装復元制作・室町時代5号(下絵)

<制作打合せ>

 生地の完成とほぼ同時期に、京都では3度目となる緊急事態宣言が発表され、職人による制作打合せが実施できない状況が続きました。宣言の延長を経て、ようやく実施できたのは6月下旬。当初のスケジュールから1ヵ月遅れての始動です。

各衣装の制作を行う職人たち。衣装下には制作した練緯生地。

職人たちはそれぞれの担当部分を画像におさめたり、作業工程を話し合います。そこで協会事務局から衣装に使われた練緯生地を復元したこと、今回はこの生地を使うことを伝えたところ、生地の風合いを確認した疋田絞りの職人から「このような硬い生地では絞ったことがなく、これでは出来ない」という意見が。「もっと生地を柔らかくしてほしい」という要望と、「生地を柔らかくすると衣装の風合いが変わるのではないか」という懸念が交錯し、話し合いは長時間に及びました。

  問題の室町9号。疋田絞り(裾)と本座絞り(肩) 練緯地。薄くシャリ感

 

協議の末、次の通り進める運びとなりました。

(練緯の対応)
室町5号は湯のし、9号は地染めでセリシンを落とし、生地の状態を確認する。
※絹繊維の周りを覆う蛋白質。高温水に浸すと溶けて除去が可能になる。除去すると繊維が柔らかくなり光沢が増す。
(染め)
旧衣装の内側の色を参考に色見本を決定する。
(その他)
旧衣装にみられる、作業ミスや柄落ちなどは修正して新衣装に反映させる。

─室町9号・練緯の風合い調整─

後日、藤井絞より湯のしや地染を施した生地があがってきたとの連絡を受け、協会と京鹿の子絞振興協同組合の事務局が集まり、確認を行いました。
室町5号は当初よりは柔らかくなった印象ですが、まだシャリ感は残っています。室町9号はシャリ感が消え、羽二重のような風合い。事前に疋田絞りの職人さんに見せたところ「これなら絞れます」とOKが出たそうです。しかしシャリ感がなくなり旧衣装の復元に近づけることができるのか不安が残ります。室町5号用の反物の硬さでも疋田絞りは出来ないそうで、「これでいくしかない」と藤井絞さん。仕上げで糊を使うなど、風合いを復活させるひと手間をはかり、旧衣装に近づけるようにすることで意見を一致しました。
それにしても、昔の人はどうやって練緯のような硬い生地に疋田絞を施していたのでしょう。これも失われた技術のひとつなのでしょうか。謎は深まりますが、とにかく作業を進めていかねばならないので、仕上げの作業に期待し、先に進みます。  

 反物(下から9号用.(地染済)・5号用・予備分)   地染めにより柔らかい風合いと光沢が。

 

5.下絵

では下絵の作業です。この作業を行って下さるのは松本忠雄さんです。松本さんには以前室町12号の辻が花の下絵と墨書きを担当して頂きました。
白生地は合い口(身頃や生地の繋ぎ目)に誤差なく柄が繋がるように、反物から仮絵羽に仕立てられ、衣装の柄を紙に全て写していきます。この紙を白生地の下に敷き、生地に写った線や柄を筆で描いていきます。筆に含ませる染料は化学染料で、紫外線により2ヵ月程で色は自然に消えてしまうそうですが、この衣装は作業後すぐに糸入れの作業に移るため問題はありません。長期に亘り作業するような衣装は紫外線では色の消えない貴重な青花液を使うなど、制作期間によって使い分けているのだそうです。
線や柄の輪郭は、点線で描いていきます。直線では生地が引っかかり書きづらいために点線で描くのだそうです。作業を始めるといくつかの発見があったようで、仮絵羽にしたら合わせられる柄が合ってなかったりしたことから、旧衣装は反物のままか、あるいは反物を部位毎に切った裂の状態で下絵を描いたのではないかと推測されていました。またメインの柄となる雪輪模様は、現代ではコンパスなどを使って正確な円を描きますが、昔は手描きで一気に描いたためかガタガタな円であること、一ヶ所だけ柄が欠けた部分があること(新衣装にも反映)などに気づかれたそうです。


部位毎に書いた下絵 下絵を生地に写していく
柄の輪郭に沿って筆で点線を書く 合い口を合わせるため生地は仮絵羽

 

  下絵の作業を動画でみてみましょう。雪輪模様の欠けた柄も映っています。

 

 

下絵が完了すると、糸入れや染めの作業に移り、最後は描き絵を施すため、再び松本さんの出番となります。辻が花の部分的な色付けは、現代ではコンプレッサーを使って染料を吹き付けて行うこともあるのだそうです。コンプレッサーは色を小規模にぼかすときに使用し、作業時間が短縮できますが、しかし一方で操作の加減が難しく、慣れるまでは大変ご苦労されるようです。「筆のほうが楽と思う時もあるが、この先いつか道具が無くなっていくのだから、新しいやり方にも慣れていかないと」と松本さん。染織の現場を支える筆や刷毛など、道具を作るのもまた高齢の職人で、いつか道具が供給されなくなるという危機感は職人の誰もが持っておられます。それに備えるため新しい技術の代用や自作の道具などで工夫しながら、次代に伝統を繋いでいこうとされる姿勢を強く感じました。

 

 

染料を噴射しぼかしを表現するコンプレッサー

 



この日の工程は、

→紙に旧衣装の柄を写す。
→仮絵羽になった白生地の下に紙を敷き、輪郭に沿って筆で下絵を描く。
→完成


次は糸入れの作業です。

 

 

 

 

 

 
 
京都市下京区四条通室町東入函谷鉾町78番地
京都経済センター6F