<スタッフ紹介>

        北川学芸員とその助手

    

 

  

 

 

時代衣装の構成と使われた技術についてわかりやすくご説明します。素人撮影のため見辛い箇所があるかもしれませんが、なにとぞご容赦ください。

ご質問・ご要望はまで。

 

 

インターネットミニ染織講座

衣装復元制作・室町時代9号(下絵)

5.下絵

では下絵の作業です。この作業を行って下さるのは壱岐商店 長谷川正一さんです。長谷川さんは和装小物(主に絞りの帯揚げ)の下絵を普段描いておられるので、絵羽の場合の下絵のアドバイスをと本日は桃山4号、6号の下絵でお世話になった後藤和弘さん(後藤絞画店)も立ち合って下さいました。
白生地は合い口(身頃や生地の繋ぎ目)に誤差なく柄が繋がるように、反物から仮絵羽に仕立てられています。旧衣装の柄をトレースに写し、このトレースを白生地の下に敷き、生地に写った線や柄を筆で描いていきます。ここで使用されるのは青花筆ペン。使い方は筆ペンと同様で、太さを調整しながら描いていきます。インクは青花の代用品である化学染料。紫外線によっておよそ2ヵ月でインクが消えてしまいますが、室町5号と同じように、下絵完了後すぐに糸入れの作業に移るため問題はありません。「こないだ、やっと青花が入ってきた」と後藤さん。露草の花の部分を集めて作る青花紙の入荷がなく、困っていたのだとか。天然の青花液は作る人も殆どいなくなり、今や安価な代用液が主流になっています。しかし色を長く保てる一方で水で簡単に消える青花液の特性は、手の込んだ装飾が施される制作期間の長い高級呉服には無くてはならないもの。青花液を使う職人が少なくなったのは、手の込んだ高級呉服の制作が少なくなったことも意味しています。


    
柄をトレースに写す 青花筆ペン
平縫いの部分は点線で描く 平縫いの部分
帽子絞りは曲線で描く 帽子絞りの部分
仕立てでの調整を想定し、合い口が常に合うよう、縫い込み部分の下絵も描く

  

波模様の平縫い部分は点線で描き、帽子絞り部分は曲線で描きます。これは次の糸入れの工程のための指示書のようなもの。仕立てると内側に入る縫い込みの部分にも柄を描き、仕立の調整が入っても対応できるよう(合い口が必ず合うよう)にしておきます。

下絵の作業を動画でみてみましょう。

 

 

 

下絵が完了すると、糸入れの作業を経て、肩部の本座絞りの作業に移ります。本座絞りは本座鹿子ともいい、疋田絞技法のひとつです。現在疋田絞は型紙で粒を付け、その粒を手括りで絞りますが、本座絞りは模様の輪郭線だけ描いた白場部分を、手加減だけで絞る技法です。型による整然とした配列ではなく、自然な柔らかい配列が出来るのが特徴で、江戸時代までの絞りは殆どこの絞り方でしたが、明治時代以降はこの技術保持者が激減し、現代では皆無と言われています。この室町9号は本座絞りが施されており、昭和初期ではまだ技術が継承されていたことが伺えます。今回作業を行って頂く河本さんは、小さい頃お母様がやっていた様子を思い出しながら挑んで下さるようです。
とはいうものの、現代では恐らく誰もやったことがない高度な試みに、長谷川さんは「念のため」と下絵を用意しておいて下さいました。分業ならではの心配りです。

 

 

 



この日の工程は、

→トレースに旧衣装の柄を写す。
→仮絵羽になった白生地の下に紙を敷き、輪郭に沿って青花筆ペンで下絵を描く。
→完成


次は糸入れの作業です。

 

 

 

 

 

 
 
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